エレガントなテーマのスタイリストは、言わずと知れたジョルジェット・ジュジアーロ。発表から18年を経過した今でも色褪せないデザインは、さすがとしか言いようがない。ジュジアーロの作品の中でも特に秀作といえるのではなかろうか。広い室内と広大なトランクを備えた実用ベルリーナでありながら、エレガントさを兼ねそえたデザインはテーマの最大の魅力である。また、室内もランチアの伝統どおり上品でかつスポーティな空間である。
一見オーソドックスな4ドアセダンであるテーマデザインの特徴は何なのか。全体的なフォルムで言えば、発表当時のトレンドであった「ハイデッキ」スタイルでありながら、腰高な感じを与えない絶妙の処理であろう。また、一見四角く直線的な「箱」に思われがちなテーマであるが、実際には前後とも結構絞り込まれている。そのあたりがリアのボリュームを感じさせない要因なのかもしれない。
もう一つのポイントは、A、B、C3つのピラーが天空で交わるというセダンの黄金比のようなバランスであろう。また、プレスドアの採用でドアのふくらみをそのままBピラー(センターピラー)に延長し、サイドウインドウ部分でルーフに絞り込まれていることだ。通常、高級セダンになればなるほどドアのふくらみを強調し、サイドウインドウ下部に段差をもうけるのが高級に見せるテクニックであるのだが、テーマの場合はその常識を見事にくつがえし、モダンでかつ落ち着いた佇まいに成功している。もちろん、そのことは内部空間の確保にも一躍買っている。
それに関連して、サイドウインドウまわりの美しいモールがテーマの最大のポイントではないだろうか。これも通常、特に日本車あたりは、Bピラーをいかに細く見せるか、あるいは、ガラス面を広く見せるためにブラックアウトするテクニックが多用されている。しかし、テーマはピラーをピラーとして正々堂々デザインとして取り込んでいる。「デザインは機能に従う」というポリシーを主張しているかのようだ。


■デザインの変遷

テーマは大きく3つのジェネレーションに分けられる。1984年の登場から1988年10月のパリサロンで初めてのフェイスリフトを受けるまでが第一期(フェーズ1)、1992年のパリサロンで第2回目のフェイスリフトを受けるまでが第二期(フェーズ2)、そして1992年の生産終了までの間のモデルは第三期(フェーズ3)と呼ばれる。


■各モデル考察

[ Phase1 ]
ジュジアーロのオリジナルデザイン、フェーズ1を見ればテーマの基本的なコンセプトが見える。どんなクルマも初期型が最も美しいというのははずれてはいない。デザイナーの発想が最も素直に活かされているからだ。
フェーズ1の特徴はヘッドライトが「厚い」ことだろう。世の中のどんなクルマよりも四角く大きいかもしれない。時代が進むにつれて、どんどん切れ長の目になっていくのを見るにつけ、テーマのこの大きな目は、おっとりとしていて柔和な目つきだ。
サイドに廻ると、サイドモールが細いし、サイドスカートもない。元々ないのがオリジナルデザインだから。ずいぶんスッキリしているという印象だ。ホイールは日本に入っているのは全てクロモドラ製のアロイを履いている。つや消しで上品なホイールだが、プリズマ用をそのまま持ってきたせいもあり、ボディの大きさの割にタイヤが小さく見えてしまう。
細かい点では、フロントグリルがフェーズ2以降のプラスチック製とは異なり、周囲のシルバー部分はステンレス製でモデル中最も細くて繊細。角度もボディに沿って寝かされている。テールランプはフェーズ2以降の全体に赤みがかったレンズではなく、赤黄白が「生」のままで、コンビネーションの横ラインが強調されている。また、モデル名を示すプラックがリアに装着されているのはフェーズ1だけだ。
インテリアに関しては、木目が一切使われていない黒一色のダッシュボードながら高級感があるのは、デザイン力の賜物であろう。フェーズ1のハイライトはなんと言っても高級紳士服で有名な「ゼニア」の生地を使ったシートだろう。なんということのない形のシートだが、厚みのある背もたれとセンスの良い生地、そしてイタリア車としては座面が堅めながらもサイドの盛り上がりがなんとも言えない座り心地を提供している。ステッチの間隔が本当に美しい。


[ Phase2 ]
1988年には当時ランチア・デドラやアルファ155を手掛けたIDEAの手によりフェイスリフトが行われた。これがフェーズ2である。ジュジアーロがデザインしたモダンでエレガントなボディに加えられた要素は、「クラシカルモダン」な装飾であろう。よりランチアらしいラグジャリーさを演出することに成功している。その理由は、アルファ164、フィアット・クロマなどティーポ4プロジェクトが出揃ってきたフィアットグループ内におけるポジショニングの明確さが必要になってきたためだと思われる。
最も大きな変化は「顔つき」だ。フェーズ1のあの大きな目は、フェーズ2では細く切れ長になり、厚みのあったテーマの顔が薄く見え、ずいぶんとスポーティな印象へと変化した。ヘッドライトの下には、ブラックアウトされたウインカーレンズが幅一杯に埋め込まれ、ヘッドライトは4灯式に変更された。
フロントグリルの角度はやや手前に起きてきて、上部のクロームが太くなった。これもプレステージサルーンとしての「高級感」を出すためだろう。中の黒い桟も横から縦になり、モデル名を示すプラックが四角いプレートになった。
サイドに廻ると、太くなったサイドモールが目に付く。モールの先頭にはTHEMAの文字が埋め込まれる。また、黒いプラスチックのスカートも追加され、サイドビューがずいぶんと引き締まった。ホイールは、スピードライン製でアルミ色に輝くタイプに変更された。サイズはターボとV6が15インチ、ie16vが14インチだが、いずれも旧型よりも大きく見せることに成功している。
テールは、レンズが全体に赤味を帯び、深みのあるコンビネーションランプになった。また、中央のランチアエンブレム以外は一切のプラックを外し、すっきりした印象になった。
インテリアだが、オーディオフードとアッシュトレイ、ドア上部にウッドパネルが貼られ、こちらもラグジャリーな感じが強くなった。しかし、よくあるテカテカのウッドではなく、艶消し塗装が施されたシックなアフリカンローズウッドで華美になりすぎないセンスの良さを感じる。ランチアらしさとはこういうものだ。
シートは残念ながらゼニアではなくなったが、ie16vはカジュアルなチェック柄の生地が採用され、絶妙なセンスを感じることができる。また、現在における「ランチアらしさ」にまで成長した「アルカンタラ」地のシートが生まれたのは、このフェーズ2テーマからである。ベージュやグリーン、ブルーなどシックなカラーのアルカンタラは、まさに上品な高級感である。


[ Phase3 ]
最後のフェイスリフトは1992年、ランチア社内によって行われた。特に大きく変化したのはフロントで、バンパー下部には従来のフォグランプに加えてパーキングランプが連結されている。これにより下の方がやや強調され、顔つきがまた大きく変化した。グリル内部の格子はクロームになり、長くなったフォグランプと相まって随分と華美な印象を与える。
リアにおいてはフロントとは逆にシンプルになった。トランクリッドのナンバープレート上下に入っていた細いプレスラインが消えた。これにより、非常にクリーンでモダンになった。バンパー下のブラックアウトもなくなり、後ろから見た印象はハイデッキが強調されるような結果となった。
テーマのトレードマーク、シルバーのウインドウモールは、8.32のような黒の着色となった。出た当初はがっかりしたものだが、今となっては時代に合った変更であったと納得できる。
室内はほとんど変化がない。ただ、フェーズ2末期から登場したLXグレードでは、8.32と同じダッシュボードとポルトローナフラウ製の本革シートが採用された。